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2011年1月18日 (火)

水銀条約とPVC 

水銀条約の制定に向けた政府間交渉委員会の第2回会合が1月24日ー28日に千葉市幕張で開催される。

国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)では、国境を越えて広がる水銀汚染と健康被害を防ぐため、2001年以来、地球規模での水銀対策について議論が行われている。

付記 水銀の問題については、石弘之氏がECO JAPANに「大詰めの水銀条約 変わる人類と水銀の“付き合い”」を書いている。
  
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20100514/103826/?P=1 

2009年2月に開催された第25回UNEP管理理事会で、水銀対策についての条約制定のための政府間交渉委員会を2010年に設置し、2013年2月の第27回UNEP管理理事会までに成案を得ることが決定された。

2010年6月にストックホルムで水銀に関する条約の制定に向けた政府間交渉委員会第1回会合が開催された。

この会合の特徴のひとつは、NGOがこの会合に参加し、会議の場で発言して意見表明をすることができるということで、多くのNGOが意見を述べた。 もちろん、決定権はない。

会合の冒頭で、日本は以下の発言を行った。

・水俣病の経験国として、同様の健康被害や環境破壊が世界で繰り返されないよう、今後とも交渉に積極的に貢献
・日本の知見や経験、汚染防止対策、排出抑制技術、水銀代替技術の共有を通じて水銀によるリスクの低減に貢献
・2013年後半に予定される外交会議を日本に招致し、承認される条約を「
水俣条約」と名付けたい。

その後、条約の目的及び内容等(水銀の供給・需要・貿易の削減、水銀廃棄物の適正管理、水銀の保管、大気への排出の削減、普及啓発、能力開発及び技術的・財政的支援等)について、順次各国から意見が述べられた。

各国からの意見を基に、次回の会合に向けてUNEP事務局が、条約に盛り込まれるべき要素を提示、議論に必要な様々な情報を整理すること等が決定された。

千葉で開催される第2回会合では水銀条約の原案が提示される。

1月7日付け毎日新聞はこの骨子を報じている。

・目的 水銀と水銀化合物の人為的排出から健康と環境を守る。
・供給削減 鉱山から採掘した水銀を禁輸する。
保管 新たに策定する方針に基づき、適正管理する。
貿易 輸出通知書の提出と、輸入同意書を取り、認められた場合のみ輸出できる。
水銀添加製品の
 使用
付属書で適用除外用途として登録しない限り、製造、流通を認めない。
大気への排出 最良技術の適用を義務づけ。年間排出量の多い国は削減目標と行動計画を策定する。

付記
第2回政府間交渉委員会が開かれる前日の1月23日に、NGOが同じ会場で水俣病患者を招いた集会を開いた。
集会では、日本政府が「水俣条約」と命名するよう提案していることに対し、水俣病の被害者や支援者などの団体が声明を発表、「日本政府が、悲劇にきちんと向き合い、本質的解決の道筋が示されない限り、反対する」と主張した。

ーーー

UNEPが 2009年5月に発表したアジアの水銀使用の状況は以下の通り。
  (2005年ベース、輸出製品含有を含む。単位:トン/年)

中国 東アジア
東南アジア
(除 中国)
南アジア
小規模金 120240 288384 312
カーバイド法VCM 700800  ー   ー 
水銀法電解 ー  48 3540
電池 150200 5070 3050
虫歯治療材 4555 2531 2232
計測器 280310 2030 4050
照明(蛍光灯など) 6070 2025 2025
電気器具 3040 1520 2530
その他(農薬、触媒、その他) 4080 3040 2030
合計 14251845 452608 195269

東アジアは日本、韓国など
南アジアはインド、パキスタン、アフガニスタンなど

小規模金採鉱とは途上国で行なわれている人力による零細な金採鉱で、手掘りした金鉱石を水銀を用いて金との合金(アマルガム)をつくり、それを熱して水銀を蒸気にして飛ばし、金を得るという原始的な作業で、ほとんどが非常に貧しい人々が従事し、世界中で家族を含めて1,000万人近くいると言われている。

ここで使用される水銀のほとんどは先進国から輸出されており、水銀の輸出禁止が水銀条約の大きなテーマとなる。

EUと米国は水銀の輸出を禁止した。多くの開発途上国と移行経済国でEU と米国から輸入される水銀の大部分が持続可能ではない方法で用いられていることを示す証拠があるからである。

EU の禁止は2011年に発効する。余剰水銀は世界の市場に出回らないようにするために、同年をもって安全に保管される必要がある。
米国の禁止も2013年に発効する。米国はエネルギー省に対して2010 年までに保管施設を選定するよう求めた。

日本は非鉄精錬の副産物や蛍光灯などの水銀含有製品から年間100トン以上の水銀が回収されるが、ほとんどは余剰水銀として輸出されており、多くが、最終的に途上国の小規模金採鉱で使用されていると言われている。
日本からの輸出先には大きな需要がないはずのシンガポール(2009年 54.2トン)や香港(同 27.6トン)が含まれ、NGOでは転売されている可能性を指摘する。

2009年10月に、国内54団体、海外60団体の計114団体の賛同を得た市民団体共同声明が政府に提出された。
日本は水俣の悲劇を経験しているにも関わらず、残念ながら、非鉄金属精錬、水銀含有廃棄物、その他からの回収により生じる水銀を開発途上国や移行経済国を中心に毎年100トン以上輸出し、結果として、世界の市場に回収水銀を再循環させています」とし、
・「水銀輸出禁止法」を早急に制定すること
回収水銀等、国内で発生する余剰水銀を国内で安全に永久保管すること
などを求めている。

輸入同意書を得ても転売される可能性はあり、日本も輸出を禁止すべきであろう。同時に(売却できることで回収されている)水銀の回収がおろそかになり放置されることは絶対にあってはならない。

ーーー

日本では当初、PVCの製造では、水銀法電解による塩素と、カーバイド法アセチレンからVCMを製造しており、塩素製造とVCM製造プロセスで水銀を使用していた。

  ①水銀法電解

精製塩水を電解槽(陰極に水銀を使用)に送り電気分解する。

陰極(水銀)でナトリウムアマルガム(Naと水銀の合金)を生成、これを解汞塔で加水分解し苛性ソーダを得る。
  Na
+e―→Na(Hg) 
  2Na(Hg)+2H
O→2NaOH+H

陽極で塩素ガス(Cl2)が発生

  ②カーバイド法アセチレン

石灰石を焼いて生石灰に還元。
  CaCO
3→CaO+CO2

生石灰とコークスの混合物をカーバイド炉に投入し、電極放電で得られる2,000度C以上の高温下でカーバイドを製造。
  CaO+3C→CaC
2+CO

カーバイドからアセチレンと水酸化カルシウム(消石灰)を製造。
  CaC
2+2HO→C2H+Ca(OH)2

  ③VCMの製造

    アセチレンと塩酸を塩化水銀(HgCl2)触媒下で反応させ、VCMを製造
      C
2H+HCl →C2H3Cl

その後、下記の経緯で、水銀を使用するプロセスは使われなくなった。

1960年頃に電気の価格の上昇でカーバイドのコストが上がり、採算が苦しくなった。
その頃、EDC法が導入され、各社がこれを採用しようとした。

当時の通産省はVCMの新増設の承認にあたり、①カーバイドのコスト引き下げは難しいので、今後はEDC法などを採用すること、②その場合、古いカーバイド法のS&Bで実施することなどを条件とした。

この結果、その後カーバイド法はすべてなくなった。

水銀法電解についてはその後も使われていたが、1956年5月に水俣病が公式に確認され、その後、水銀が原因であることが分かった。
このため、1973年4月に通産省がソーダ業界に対して非水銀法への転換を要請、1986年までに隔膜法やイオン交換膜法にすべて転換された。その後、1999年には日本の製法はすべてイオン交換膜法になった。

なお、チッソ水俣工場では、アセチレンからアセトアルデヒドの製造工程で使われた触媒の水銀がメチル水銀となり、廃液とともに排出された。

アセチレン(C2H2)+H2 →アセトアルデヒド(CH3CHO)

アセチレンを水に通しただけでは、水和は起こらないので、酸化水銀HgOを加えた硫酸水溶液にアセチレンを吹き込み、上の反応を起こした。
この過程で一部、水銀化酢酸が発生し、これが脱炭酸反応することによりメチル水銀が生成したと考えられる。

昭和電工の鹿瀬工場においても同様である。(新潟水俣病)

昭和電工は1965年に、チッソは1968年に生産を停止した。
(昭和電工は徳山で、チッソは千葉で、エチレン法によりアセトアルデヒドを生産した。)

ーーー

水銀法電解は欧州でも今も使用されている。

ECは2002年7月に塩素業界に対し、水銀排出の自己規制システム導入を要請したが、当時の水銀法能力は600万トンで、全生産量の54%を占めていた。

欧州の塩素の業界団体Euro Chlor20032月の総会で、2020年までに水銀法の能力を全廃する目標を決めた。

2007年にイオン交換膜法の能力は初めて水銀法能力を上回った。

2008/10/8 Solvay、フランスの水銀法電解をイオン交換膜法に転換

ーーー

では、2000-05年の5カ年計画で水銀法電解は廃止され、現在は使われていない。
しかし、カーバイ
ド法PVCについては、エネルギー消費が多いことや環境問題から一時は廃止する動きがあったが、PVC需要の大幅増に対処して、休止中のカーバイド法設備の稼動や新・増設で自給能力を高める方向を目指した。

一方で中国政府は2004年以降、過剰能力、廃棄物対策、公害防止などの理由で、小規模設備の規制を続けてきた。

塩ビ関連では以下の通り。

2004年5月、アセチレン法PVCでは年産8万トン以下(EDC法では20万トン以下)の新設を禁止
同時に、
環境に悪影響を与えると見られる技術の使用禁止とし、禁止品目に水銀法苛性ソーダや毒性の強い各種の農薬・殺鼠剤、シックハウスの原因となる塗料等が含まれた。

2005年12月、アセチレン法PVC禁止を12万トン以下に変更

2006年5月、カルシウム・カーバイド工場について、年1万トン以下の炉、開放型の炉、環境基準に満たない炉は停止
2010年8月、4万トン以下の多数の老朽カーバイド工場に停止命令が出された。

この結果、逆に大規模なアセチレン法PVC設備が多数建設された。
中国工業情報化部(MIIT)によると、現在の中国のアセチレン法PVCの状況は以下の通り。(下記の通達に記載)

2009年末時点で中国に104のPVCメーカーがあり、能力合計は1481万トン、うち、カーバイド法は94で、能力全体の76.5%を占める。カーバイド法の生産量は580万トンで、生産量合計の63.4%を占める。

塩化水銀(HgCl2)触媒はPVCトン当たり1.2kg使用されている。(HgCl2は平均11%含まれる)
2009
年のカーバイド法生産量は580万トンのため、触媒は7000トン使用された。HgCl2は770トン、水銀は570トンとなる。

現在、塩化水銀の回収率は75%で、水銀を含む塩酸等は20%しか回収されていない。

中国での水銀使用のうち、カーバイド法PVCは60%を占める。

中国では最近、水銀や重金属の汚染事故が多発しており、2009年11月には関係省庁が共同で重金属汚染防止の通達を出している。

加えて、PVCと電池の伸びで中国は水銀の生産が追い付かず、50%を輸入に頼っており、水銀条約で今後、世界の水銀鉱山が閉鎖され、輸入できなくなると、供給が断たれることとなる。

しかし中国ではカーバイド法PVCは70%以上を占めており、これをすべてエチレン法に転換するのは無理である。
政府間交渉委員会第1回会合でも、中国は、PVC製造のために石炭を使う必要があり、ある程度の水銀排出はせざるを得ないと主張している。

中国が水銀法の電解を禁止しながら、同じように水銀を使うカーバイド法PVCを禁止しないのは、中国が大量に輸入をせざるを得ない石油を原料とする(エチレン法)のではなく、中国に大量にある石灰石と石炭(コークス)を原料としたいためである。

深刻な環境汚染と水銀の供給問題に直面し、中国石油化学工業協会とクロルアルカリ工業協会は2009年に共同で指針を出したが、工業情報化部(MIIT)はこれに基づき、UNEPの動きも踏まえ、2010年5月31日付で通達261号「カーバイド法塩ビ業界水銀汚染総合防止管理通達」を出した。 
http://www.miit.gov.cn/n11293472/n11293832/n12843926/13249494.html

125カ年計画(2011-15)期間中にカーバイド法PVC業界の水銀の管理を強化し、水銀汚染を防止するもので、
2012年までに低水銀触媒の使用を50%にし、塩化水銀の使用量を25%減らし、使用済み水銀触媒の回収をリーズナブルなレベルで行う
塩酸深度脱吸技術普及率を50%以上とする
2015年までに低水銀触媒の使用を100%にして、使用量を50%減らし、使用済み水銀触媒を100%回収する
というもので、対策等を詳細に述べている。

低水銀触媒は触媒中の塩化水銀の量を半減するもので、新疆天業集団、河北盛華化工青島海晶化工など、20社以上で使われている。

また、いろいろの水銀回収技術や水銀を使用しない触媒の開発も行われている。

しかし、多くの解決すべき問題があり、2015年にまでにこの目標を達成するのは非常に難しい。
また、目標が達成できても、水銀の使用は半分は残ることとなる。



  目次、項目別目次

http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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