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2010年7月21日 (水)

エネルギー供給構造高度化法は第二の産構法か?

経済産業省は7月5日、エネルギー供給構造高度化法の基本方針の一つに重質油分解能力の向上を挙げ、重質油分解装置の装備率の目標を決めて、業者に対して重質油分解装置の新設若しくは増設又は常圧蒸留装置の削減により適切に対応することを求めた。

これについて、本ブログでは、重質油分解装置の装備率の向上に係る基準を定めて強制するのは、経産省が設備処理を強制することとなり、法律の正しい運用かどうか、疑問であるとした。

2010/7/7 エネルギー供給構造高度化法で重質油利用促す新基準、石油業界の再編圧力に

エネルギー供給構造高度化法(正式名は「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」)は2009年7月1日に成立した。

電気事業者と石油事業者、ガス事業者に、(1)非化石エネルギー源の利用、(2)化石エネルギー原料の有効な利用の促進を義務づけている。

  電気事業者 石油事業者 ガス事業者
非化石エネルギー源の利用
太陽光、原子力など非化石電源の利用拡大
太陽光発電による余剰電力買い取り
バイオ燃料利用
バイオガス利用
化石エネルギー原料の有効な利用  
原油の有効利用
天然ガスの有効利用

いずれについても以下のように定められている。

経済産業大臣は、必要な「指導及び助言」をすることができ、
供給事業者は達成のための計画を作成し、経済産業大臣に提出しなければならず、
経済産業大臣は、著しく不十分であると認めるときは、必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。
供給事業者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

これによれば、今回の重質油分解装置の装備率の向上に係る基準に従い、(重質油分解装置の新設か)常圧蒸留装置の削減をしなければ、経産相は勧告を行い、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができることとなる。

ーーー

石油連盟は2009年3月19日の石油連盟会長定例記者会見で資料「エネルギー供給構造高度化法と石油業界の考え方について」を配布した。
その中では、競争力強化のため、「民間事業者の創意工夫と自主性の尊重」をうたっている。

新法施行にあたっての石油業界の考え方

(1)エネルギーの特性に応じた供給構造の高度化
 ・2030年も石油は一次エネルギーの約4割を占める基幹エネルギー
 ・石油残渣などの高度化利用技術の開発・普及
 ・経済性・利便性の優れた石油の有効活用の促進

(2)エネルギー産業の競争力強化
 ・
民間事業者の創意工夫と自主性の尊重(規制のみに拠らない誘導的措置)

 ・リスクの高い事業への取り組みに対する国による継続的な支援の実施
 ・情勢変化に応じて方向性を柔軟に見直すこと

(3)エネルギー間の公平性の確保
 ・各エネルギーの特性に応じた効率性、合理性に基づくベストミックスの達成
 ・税や政府の支援措置などエネルギー間の公平性を実現すること

現行の石油石炭税について
  税率 熱量当たり
税負担
(円/106kcal)
比率
石油    2,040円/kl 223円  100
LNG 1,080円/t 83円  37
LPG 1.080円/t 90円  40
石炭 700円/t 110円  49

ーーー

今回の告示にはいろいろ問題がある。

1)重質油分解能力の向上

方向として重質油分解能力の向上をあげるのはよい。
しかし、この法律では、基本方針は勧告から命令につながっている。


どういう原料を使って、どういう製品をつくるかは、企業の判断である。
仮に新設をする場合も、重質油分解装置をつくるかどうかは、企業の判断であり、国が強制するのはおかしい。

2)重質油分解能力の増加の可能性

国内の原油処理能力は日量479万バレルだが、ガソリンなどの需要減で現状の処理量は日量300万バレル台で推移、日量100万バレル以上の過剰能力を抱えている計算になる。

重質油分解装置の新設には500億円以上かかるとされ、内需が縮小する中で新増設は非現実的である。

この状況下で非現実的な重質油分解能力の向上を基本方針とするのはおかしい。

重質油分解装置の装備率の向上を目指すのは、重質油分解能力の向上ではなく、常圧蒸留装置の削減を目指していることに等しい。

3)重質油分解装置の装備率の向上

アジア各国の重質油分解装置の装備率は中国が35%、シンガポールが22%。アジア平均でも19%。
経産省では、
我が国の重質油分解装置の装備率を 2013年度までに現状の10%から13%程度まで引き上げることを目標としている。

中国やシンガポールは重質油分解装置を新設したのであり、日本が常圧蒸留装置を削減して比率を上げるのは自己満足に過ぎない。
装備率が上がっても、法が目的とする「原油の有効利用」にはならない。

日本の場合、過剰能力を抱え、今後需要が伸びる可能性は少ないため、メーカーは減産又は廃棄をせざるを得ず、政府が干渉せずとも自動的に装備率は増える。

今回の経産省の案を実施した場合、装備率は13.9%に上がるが、現在各社が発表している能力削減計画だけでも、13.4%となり、とりあえずの目標は達することとなる。
この場合でもまだ過剰能力のため、減産は必至であり、「
率」はもっと上がる。

トッパー
処理能力
(万bbl/d)
重質油分解装置 改善達成
のための
トッパー
能力
(万bbl/d)
トッパー
能力
削減
義務量
(万bbl/d)
トッパー
能力
削減
計画

(万bbl/d)
この場合

装備率(%)
分解能力
(万bbl/d)
現状
装備率
(%) a
改善
目標率
(%) b
改善後
装備率(%)
 a x b
和シェル石油グループ 51.5 8.8 17.1 15 19.665 44.8 6.7 12  
JXグループ 179.22 20.6 11.5 30 14.95 137.9 41.4 60  
出光興産 64 8.3 13.0 15 14.95 55.7 8.3 10  
コスモ石油 63.5 2.5 3.9 45 5.66 43.8 19.7 8  
東燃ゼネラル石油 66.1 2.8 4.2 45 6.09 45.6 20.5    
太陽石油 12 2.5 20.8 15 23.92 10.4 1.6    
富士石油 19.2 2.4 12.5 30 16.25 14.8 4.4    
極東石油工業 17.5 3.4 19.4 15 22.31 15.2 2.3    
合計 473.02 51.3 10.8   13.9 368.2 104.9  90
削減後 
383.02

13.4

  上記ブログ記載の週間ダイヤモンド(2010年6月22日号)の表を補正

4)重質油分解装置の装備率の強制

上記のとおり、重質油分解装置の装備率は意味がない。
これを政府が各社に強制するのはおかしい。

5)常圧蒸留装置の削減

政府が各社の能力の削減を命じることは出来ない。
(水銀法の電解のように安全その他の問題のある場合を除く)

今回は、重質油分解装置の装備率の強制により、実質的に常圧蒸留装置の削減を命じている。

しかも、過去に各社の判断で設置してきた重質油分解装置の装備率により削減量が決まるため、極めて不平等なものとなっている。

社名 トッパー
処理能力
(万bbl/d)
改善達成
のための
トッパー
能力
(万bbl/d)
トッパー
能力
削減
義務量
(万bbl/d)
義務
削減率
(%)
トッパー
能力
削減
計画
(万bbl/d)
削減率
(%)
達成
昭和シェル石油グループ 51.5 44.8 6.7 13.0 12 23.3
JXグループ 179.22 137.9 41.4 23.1 60 33.5
出光興産 64 55.7 8.3 13.0 10 15.6
コスモ石油 63.5 43.8 19.7 31.0 8 12.6
東燃ゼネラル石油 66.1 45.6 20.5 31.0 0
太陽石油 12 10.4 1.6 13.3
富士石油 19.2 14.8 4.4 22.9
極東石油工業 17.5 15.2 2.3 13.1

ーーー

以上の通り、
重質油分解能力の向上を各社に義務付けるのはおかしく、
・実際に、その可能性は少ない。
・「重質油分解能力の向上」を
「重質油分解装置の装備率」にすり替えており、
その達成のため、違法に設備処理を強制している。
・結果として不平等な設備処理を強制している。

実際には各社の自主的な設備処理計画で、経産省の当面の目標(装備率13%)は達成される。減産を折り込むと実質的な装備率はもっと上がる。

それにも係らず、「重質油分解能力の向上」という名目で、(十分な設備処理計画を出していない各社に)設備処理を強制している。

不思議なことに石油連盟は、このような経営への政府の関与になんら反対をしていない。
業界主力の意向に沿っているからとの推測もできる。

これは官製の設備カルテルではなかろうか。

1988年の産構法終了により、設備カルテルも終了した筈である。
今回は法律によらず、設備処理とは直接関係のないエネルギー供給構造高度化法に基づく経産省の告示として出され、高度化法の規定で強制力を持たしている。

公正取引委員会はこれにどう対応するのだろうか。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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