化学工業と温室効果ガス
世界の化学工業を代表する国際化学工業協会協議会(ICCA:International Coucil of Chemical Associations) はこのたび、
"Innovations for Greenhouse Gas Reductions
A life cycle quantification of carbon abatement solusions enabled by the chemical industry"
と題する報告書を発表した。
http://www.icca-chem.org/ICCADocs/ICCA_A4_LR.pdf
気候変動という地球規模の課題について、グローバルな視点で化学品の低炭素化社会への貢献を定量的に検証した。
化学品の製造過程では温室効果ガス(GHG)が排出されるが、同時に、化学品の使用によりGHGの著しい削減が可能となるとしている。
化学品のライフサイクル全体にわたるGHG排出量と、化学品を使用した8分野102製品について化学品使用の場合と化学品を使用しない場合のライフサイクル全体にわたるGHG排出量の差を計算した。
米国、欧州、日本のメーカー、化学団体が作業に協力、計算をMcKinsey & Co. に委託した。
LCAはすべてOko Institutにより外部検証が行われた。
対象製品
輸送:自動車軽量化、潤滑剤、摩擦低減、エンジン効率、航空機軽量化、船舶燃料軽減、ほか
断熱:建築物断熱、冷蔵庫断熱、ほか
建築物:建設資材、配管、窓、ほか
農業:栄養補助飼料、肥料・農薬、保存、食糧生産効率、ほか
包装:食品包装、買物袋、ほか
消費者製品:電子部品、家庭用品、作業用ウエア、繊維、低温合成洗剤、ほか
電力:地域暖房、太陽光発電、風力発電、ほか
照明:電球型蛍光灯、LED照明
2030年では、現状延長の場合で化学品のGHG排出量はCO2換算65億トンだが、化学品の使用によりネットで137.5億トンの排出減になり、最大努力ベースでは50億トンの排出に対し、ネットで184.5億トンの排出減になる。
1)化学品のライフサイクルGHG排出量 (2005年ベース)
CO2換算 億トン | ||
原燃料採取 | 3 | |
生産 | 燃料消費 | 6 |
外部での発電 | 8 | |
製造中の排出 | 7 | |
小計 | (21) | |
廃棄 | 5 | |
High GWPガス* | 4 | |
合計 | 33 | |
↓ | ||
2030年(現状延長) | 65 | |
2030年(最大努力) | 50 |
* Global Warming Potential Gases 主に最終利用者により排出される。
2)化学品使用によるGHG排出削減(CO2換算億トン)
化学品の GHG排出 |
化学品使用 による削減 |
ネット 削減 |
肥料・ 農薬 除外 |
具体例 | |
化学品使用効果の計算可能分 | 14.5 | 74.6 | 60.1 | 44.1 | |
同上 計算困難分 | 10 | 10 | - | - | 食品保存料、石油精製の触媒 |
代替品存在せず計算不能分 | 8.5 | 0 | -8.5 | -8.5 | 溶剤、産業ガス、医薬原体 |
2005年 合計 | 33.0 | 84.6 (68.6) | 51.6 | 35.6 | |
↓ | |||||
2030年現状延長 | 65 | 202.5 (177.5) | 137.5 | 112.5 | |
2030年最大努力 | 50 | 234.5 (209.5) | 184.5 | 159.5 |
対比困難分は±0 と想定、代替品が存在しない場合は削減をゼロとした。
肥料・農薬については、それらを使用しない場合は作物の収量が大幅に低下し(計算では50%減とした)、同じ作物量の生産には耕地面積を倍にする必要がある。これによる植生と土壌からの固定炭素の放出を計算すると、GHG排出削減効果は2005年で16億トンと大きい。
これについては不確実性とさまざまな異論の存在のため、この削減効果を含める場合と除外する場合の計算を行った。
上表のGHG化学品使用による削減の( )は、肥料・農薬の効果の除外ケース
肥料・農薬の効果を除外した場合でも、削減比率(排出量:削減量)は以下の通り、大きい。
2005年 1:2.1
2030年現状延長 1:2.7
2030年最大努力 1:4.2
3)ネット削減の内訳 (CO2換算億トン)
2005年 | 2030年 現状延長 |
2030年 最大努力 | ||
断熱 | 24.0 | 56.0 | 68.0 | |
照明 | 7.0 | 34.0 | 41.0 | |
バイオ燃料 | - | 5.0 | 10.0 | |
包装 | 2.2 | 4.5 | 3.0 | |
船舶防汚 | 1.9 | 4.0 | 4.0 | |
合成繊維 | 1.3 | 3.0 | 3.5 | |
自動車軽量化 | 1.2 | 2.5 | 3.0 | |
低温合成洗剤 | 0.8 | 1.0 | 1.0 | |
エンジン効率化 | 0.7 | 1.5 | 1.0 | |
配管 | 0.7 | 1.0 | 1.0 | |
風力発電 | 0.6 | 4.5 | 7.0 | |
CO2回収・貯留 | - | - | 6.0 | |
地域暖房 | 0.6 | 0.5 | 0.5 | |
グリーンタイヤ | 0.4 | 1.0 | 1.0 | |
太陽光発電 | 0.4 | 7.0 | 20.0 | |
その他 | 2.3 | 4.0 | 2.0 | |
肥料及び農薬 | 16.0 | 25.0 | 25.0 | |
小計 | 60.1 | 154.5 | 196.5 | |
代替品なし | -8.5 | -17.0 | -12.0 | |
合計 | 51.6 | 137.5 | 184.5 | |
肥料及び農薬除外 | 35.6 | 112.5 | 159.5 |
* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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