韓国鉱物資源公社、ボリビアでリチウム鉱開発へ
韓国鉱物資源公社(Korea Resources Corporation)は4月29日、ボリビアでのリチウム鉱開発共同推進のため、ボリビア国営鉱業公社(Corporacion Minera de Bolivia :COMIBOL) とMOUを締結したと発表した。年480トンの生産を予定している。
COMIBOLは2008年6月18日、韓国鉱物資源公社(旧称 大韓鉱業振興公社)、LS-Nikko Copper など5社からなる韓国企業連合 とCorocoro 銅鉱山を共同開発する契約を締結している。
確認埋蔵量は1500万トンで、COMIBOLと韓国企業連合が55対45の比率で株式を保有、210百万ドルの投資額を全額韓国が負担する。LS-Nikko Copperは、日鉱金属、三井金属、丸紅の「日韓共同製錬」と韓国のLGグループ(LG電線、LG産電、LG商事)の50/50出資でLG-Nikko として設立、2003年にLG電線がLGグループを分離、LS-Nikkoに改称した。日鉱は日本側の80%、全体の40%を出資。
これとは別に、ボリビアのMorales大統領は4月21日、フランスのBollore Group とリチウム開発事業の交渉を始めると述べた。
付記
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、住友商事、三菱商事、経産省、日本貿易保険、国際協力機構からなる官民合同ミッションは、6月4日、首都ラパスでエチャス鉱山冶金大臣と面談し、ウユニ塩湖のリチウム資源開発をJOGMECを含む日本の関係企業と共同で行い、これに対して関連する政府関係機関が様々な支援を行うことの重要性と、その具体的進め方につき日本側の考え方の説明を行った。
この結果、ボリビア側としては国家事業として自ら炭酸リチウムの生産を行う考えであるとしつつも、日本からの技術的・資金的協力につき強い期待が表明された。
また、今後、開発に必要となるインフラ、技術データ等に関する情報交換及び将来の開発体制につき定期的に協議を行っていくことに合意した。
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ノートパソコンや電気自動車用にリチウムイオン電池の増産が続く中で、原料である無機化合物、炭酸リチウムは重要性を増している。
しかし、炭酸リチウムの供給には大きな問題がある。
世界のリチウム鉱の2007年の生産量と埋蔵量は以下の通り。(含有リチウム換算)
http://www.jetro.go.jp/world/cs_america/cl/stats/pdf/lithium.pdf
生産量 | 確認可採 埋蔵量 |
確認埋蔵量 | |
チリ | 9,400トン | 3,000千トン | 3,000千トン |
ボリビア | ー | - | 5,400 |
ブラジル | 240 | 190 | 910 |
アルゼンチン | 3,000 | na | na |
中国 | 3,000 | 540 | 1,100 |
米国 | 非公表 | 38 | 410 |
カナダ | 710 | 180 | 360 |
ポルトガル | 320 | na | na |
ロシア | 2,200 | na | na |
ジンバブエ | 600 | 23 | 27 |
合計 | 25,000 | 4,100 | 11,000 |
中国はチベット自治区がリチウムの産地で、中国最大のリチウム生産を誇る扎布耶(Chabyer ザブイェ)塩湖では昨年、生産拡張工事を決めた。投資総額は10億8400万元で、拡張工事終了後には、年産能力は、リチウム2万トン、酸化リチウム5000トン、金属リチウム500トン、高純度リチウム200トン、リチウム材30トン、リチウム化合物490トンとなるという。
しかし、中国ではレアアース(希土類)について「レアアース生産・輸出の厳格な規制を求める建議」が全人代に提出され、中国で幅広い注目を集めている。リチウムについても輸出を規制する可能性は強い。
2009/4/22 中国がレアアースの輸出を制限?
リチウムの埋蔵量ではチリとボリビアが全世界の80%近くを占める。
現在チリで採掘されているのはアタカマ塩湖(Salar de Atakama)にある塩の鉱床。
未開発で世界の埋蔵量の50%近くを保有するボリビアの資源はウユニ塩湖(Salar de Uyuni)にある。
また、アルゼンチンで採掘されているのはオンブレ・ムエルト塩湖(Salar de Hombre Muerto)で、米国のFMCのリチウム部門であるFMC Lithium が独占的に生産を行っている。
いずれも太古の時代には内海であった塩田(salt pan)で、現在標高3000 メートル以上の高地の極めて厳しい自然条件の下にある。
チリではアタカマ塩湖の塩水(底の岩塩と表面の塩の固まりの中間に塩水層がある)を汲み上げ、プールで天日乾燥し、アタカマ塩湖から200キロ離れたアントファガスタ港湾都市で炭酸リチウムを生産している。
チリ鉱業化学会社(Sociedad Quimica y Minera de Chile:SQM)とドイツのChemetallのチリ現地法人が生産しており、前者がアタカマ塩湖鉱区10ヵ所のうち9ヵ所の利権を所有している。
2001年10月にカナダのPotash Corporation of Saskatchewan がSQM株の18.3%を買収し、2004年に37.5%にまで引き上げている。
世界の4割を生産しているSQMは、本業であるヨード、硝酸塩カリウムの増産に注力しており、リチウム増産のめどは立っていない。(増産には新鉱区の開発が必要と言われている。)
ボリビアについては、日本や欧州の企業がボリビアのリチウム採掘を求めているが、Morales大統領は石油の国有化を行っており、ウユニの資源開発は許可されないだろうと見られていた。
2009/2/7 ボリビア、BP系ガス田を国有化
リチウム採掘を管轄するボリビア国営鉱業公社 (COMIBOL) のトップは、「わが国の天然資源に関しては、以前の帝国主義採掘モデルはボリビアでは二度と繰り返さない」としている。
大統領も何度も「リチウムのある塩湖は世界のものではなく、ボリビア国民のものである」と述べている。
今回の改正憲法では、
国家の目的と機能(9条)のなかに「自然資源の責任ある利用の促進及びその工業化の促進」を掲げ、
先住民族の権利(30条)に「そのテリトリーにおける自然資源の開発による利益を受ける権利」を挙げている。
自然資源については、
「鉱物資源、水資源、炭化水素、森林、生物多様性などはボリビア国民の所有物であり、国家によって管理される」(348、349条)、
「国家は自然資源の探査・開発・工業化・輸送流通を管理・監督する」(351条)、
「炭化水素(天然ガスや石油)は国家管理の下に置かれ、ボリビア石油公社によって生産・流通が行われる。但し特定の事業を私企業と契約によって行うことを妨げるものではない」(359条他)と規定している。
http://cade.cocolog-nifty.com/ao/2009/02/post-ca8e.html
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COMIBOLは2010年春にリチウムとホウ素、マグネシウム、カリウムを塩湖から回収する実験プラントの発注先を決定して、2013年に商業用プラントの操業を開始することを計画している。
総額200億円規模の事業で、三菱商事、住友商事、韓国のLG、フランスの企業家Vincent Bollore が政府に対し、陳情を行った。
住友商事は、リチウムを海水から効率的に回収する技術を持つ北九州市立大学国際環境工学部の吉塚和治教授(分離工学)と提携している。
海水を濃縮し、マンガン酸化物とリチウムイオンを結合させて、リチウムを回収する技術で、従来の濃縮水に炭酸ナトリウムを投入して沈殿させる方法より効率が良い。三菱商事は大株主として三菱自動車の再建を支援するが、その切り札の一つが、2009年夏に市場投入する電気自動車。三菱商事の試算によると2020年代には世界の自動車の半数が電気自動車へシフトし、原料の炭酸リチウムの需要は急拡大する。
このためボリビアの権益確保に動いた。
ボリビアのMorales大統領は4月21日、フランスのBollore Group とリチウム開発事業の交渉を始めると述べた。
Bollore Groupはイタリアの自動車メーカーのPininfarinaと電気自動車製造のJVを持っており、時速125kmで2時間走れる電気自動車用にリチウム電池を開発している。
大統領は今年の訪仏時にBollore 本社を訪問し、Bollore 社長と一緒に電気自動車に試乗した。
大統領は「ボリビア政府は天然資源のコントロールを絶対に手放さない」とし、政府の“absolute control” と、利益の60%を求めている。
また、リチウムが欲しければボリビアで電気自動車を製造することを提案すべきだとしている。
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また、アタカマ塩湖の採掘現場の自然破壊も問題となっている。
採掘し放しで、使った塩素も垂れ流しで、水が汚染されているという。
http://www.dailymail.co.uk/home/moslive/article-1166387/In-search-Lithium-The-battle-3rd-element.html
環境対策の電気自動車が環境破壊を起こすことになりかねない。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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