三菱化学、ABS事業から撤退
三菱化学とJSRは11月25日、両社のABS製造販売の合弁会社「テクノポリマー」について、合弁事業に関する業務提携を解消し、三菱化学が保有する全株式をJSRが取得し、同社をJSRの全額出資子会社とすることで基本合意したと発表した。
テクノポリマーは、1996年7月1日にJSR 60%、三菱化学 40%出資の合弁会社として設立した。
JSRの四日市にABS 20万トン、三菱化学の四日市にABS 9万トン、AS樹脂 約3万トンの能力を持つ。
JSRは、テクノポリマーについては、これまで以上に迅速な意思決定と経営資源の有効活用や最適化を図り、企業価値を高めるために、JSRのポートフォリオの中で事業を遂行していくことが最適であると判断した。
一方、三菱化学は、化学品分野における「高機能化へのシフトと事業基盤強化」の方針に沿い、戦略事業分野への集中的な投資を加速し、事業の集中と選択を推進するため合弁事業を解消、JSR100%子会社とする。
【伊藤忠彦・JSR副社長の話】
テクノポリマーの国内シェアは25%程度で、事業環境が厳しいことは確かだが、完全子会社化することで迅速な意思決定ができるし、技術を含めて集中化で きる。今後は車両用分野を中心に樹脂の高機能化、高付加価値化を図っていきたい。機能性フィルムなども将来性は十分あると思う。
【高下悦二郎・三菱化学常務の話】
旧三菱モンサント化成時代からの古い歴史のある事業だけに、深い感慨はあるが、JSRさんへの譲渡ということで納得がいくように思う。
今回の発表では株式譲渡の件だけであるが、業界の状況や4ヶ月以上前の発表であることから考えると、三菱化学内のプラントの廃棄の可能性が強い。
下記のとおり、これまでも需要は漸減しており、今後は一層厳しくなることが予想されることから、三菱化学が事業撤退を決め、JSRが引き受けたものと思われる。
今年に入り、塩ビ業界では新第一塩ビが高岡工場を停止、ヴイテックも水島工場の停止を決めている。
2008/4/5 新第一塩ビ、高岡工場を停止
2008/4/15 ヴイテック、PVC生産体制見直し
また、東ソーがスチレンモノマー業界から撤退、新日鐵化学とのJVの日本スチレンモノマーは新日鐵化学の100%子会社となった。
2008/8/9 日本スチレンモノマー解散
今後も同様の動きが出よう。
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日本のABS業界の変遷は以下の通り。
JSRはダイセルとの生産JVの協同ポリマーを設立しており、JSRの能力20万トンの中に含まれている。(ダイセルは自消)
各社の能力は以下の通り。(若干古いデータ)
会社名 | 工場 | 千トン | |
旭化成工業 | 水島 | 80 | |
UMG ABS 宇部興産 42.7% 三菱レイヨン 42.7% GE 14.6% |
宇部 | 100 | 宇部興産 |
大竹 | 66 | 三菱レイヨン | |
合計 | 166 | ||
テクノポリマー JSR 60% 三菱化学 40% |
四日市 | 200 | JSR |
四日市 | 90 | 三菱化学 | |
合計 | 290 | ||
鐘淵化学工業 | 高砂 | 0 | テクノに営業譲渡、工場は転用 |
電気化学工業 | 千葉 | 65 | |
東レ | 千葉 | 72 | |
日本エイアンドエル 住友化学 67% 三井化学 33% |
愛媛 | 70 | 住友化学 |
大阪 | 30 | 三井化学 | |
合計 | 100 | ||
合計 | 773 |
テクノポリマーの歴史は次の通り。
三菱化学 | JSR | ||
1952 | 三菱化成/Monsantoで モンサント化成設立 |
三菱化成PVC事業移管(以下四日市) | |
1953 | 可塑剤生産開始 | ||
1957 | PS生産開始 | ||
1958 | 三菱モンサント化成に改称 | ||
1961 | AS樹脂生産開始 | ||
1966 | ABS生産開始 | ABS生産開始(四日市) | |
1990 | スペシャリティ製品を日本モンサントへ統合 | ||
1994 | 三菱モンサント化成からMonsanto撤退、三菱化学へ統合 | ||
1996 | 三菱化学/JSRでテクノポリマー設立 | ||
1998 | 両親会社より製造部門を吸収 | ||
2002 | 鐘淵化学から耐熱ABS樹脂事業買収(プラントは他に転用) | ||
2009 | 三菱化学撤退、JSR 100%に |
1996年7月にJSR 60%、三菱化学 40%出資で設立され、同年10月から営業を開始し、98年4月に製造部門を統合した。
当時、JSRはABSのトップメーカーであり、三菱化学も2番手グループにあったことから、テクノポリマーは世界4位の規模をもつABS企業としてスタートした。
(世界では台湾の奇美実業を筆頭に、Bayer、BorgWarnerを買収したGEがトップ3であった。)
JSRは韓国のLG Chem、台湾の国喬石油化学と台湾化繊、中国の吉林化学などにABS技術供与を行なっていた。
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日本のABSメーカーは日本の自動車メーカーのアジア進出に伴い、レジンの輸出を行なっている。
(ABSの輸出の大半は日本の海外進出メーカー向けである)
テクノポリマーは上海にコンパウンド基地の上海虹彩塑料(Shanghai Rainbow Color Plastics)、テクニカルセンター(Techno Polymer Shanghai Technical Development ) を持っている。
更に、中国・華南地区でのビジネス拡大に対応するため2008年5月に広東省広州市に100%出資の現地法人大科能樹脂(広州)(Techno Polymer Guangzhou)を設立、2月に巴工業 80%、テクノポリマー 20% でコンパウンド会社の星科工程塑料(深セン):Stella-Tech Engineering Plastics(Shenzhen) を設立している。
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ABSの国内需要は需要家の海外進出に伴い漸減している。輸出を含めた全出荷も減少傾向にある。
テクノポリマーの損益は2007年3月期は最高益を記録したが、2008年3月期は大幅減益となっている。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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