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2008年10月14日 (火)

ノーベル化学賞に下村脩さん

スウェーデンの王立科学アカデミーは10月8日、今年のノーベル化学賞を下村脩・米ボストン大学名誉教授(80)=米マサチューセッツ州在住=と、Martin Chalfie 米コロンビア大学教授(61)、Roger Y. Tsien 米カリフォルニア大学サンディエゴ校教授(56)の3人に贈ると発表した。授賞理由は、「緑色蛍光たんぱく質(GFP)の発見と開発」。
賞金1000万クローナ(約1億4000万円)は3人で等分する。

下村さんは、オワンクラゲの発光の仕組みを解明する過程で、緑色蛍光たんぱく質(GFP)を分離し、その構造を解明した。
GFPは、細胞内で動く分子を追跡する便利な「道具」として世界中で使われている。
たんぱく質は、酵素など別の物質の助けがなければ光らないという当時の常識を覆す革新的な成果だった。

Chalfie教授は、GFPを線虫などほかの生物の体内で光らせることに成功、さまざまな生理学的現象に応用できることを示した。

Tsien教授は、GFPの発光メカニズムについて詳しく研究し、緑色以外の色にも発光するような手法を開発、赤色や黄色などの色に光るたんぱく質をつくった。

ーーー

下村さんの生物発光との出合いは名古屋大の研究員時代、教授の薦めで甲殻類のウミホタルを研究したのがきっかけ。
米プリンストン大が20年かけてもできなかった発光成分の結晶化にわずか1年で成功、頭角を現した。

1961年に「オワンクラゲ」が放つ光の謎を突き止めるため、留学先の米プリンストン大から実験器具を車に積み込み、シアトル北部の臨海実験所へ向かった。

オワンクラゲは、おわん形の傘(直径10~20cm)の縁が緑色に光る。

ホタル、深海魚、微生物などの生物の発光現象は
Luciferin という発光物質と酵素の反応で起きる。
このため無数のクラゲを網で捕獲し、体内の
Luciferin を抽出しようと実験を繰り返したが、見つからない。

Luciferinにこだわらず、何でもいいから光る物質を抽出しよう」という非常識な提案を教授は認めなかったが、自分で勝手に新しい実験を始めた。

発光物質を取り出すためには、光らない状態にしておく必要がある。(光った後では、その物質は分解されてしまう)
さまざまな薬剤を使って試したが、失敗の連続だった。

「生物の発光だから、タンパク質が関係しているはず。それならpH が影響するのではないか」と考え、実験したところ、溶液を酸性(pH4)にすると光らなくなることが判明。
気をよくして溶液を流しに捨てた瞬間、「流しの中がバーッと爆発的に青く光った」。実験所の流しには普段から海水が流れ込んでおり、海水中のカルシウムイオンと反応して強く光った。

この物質はオワンクラゲの学名(Aequorea victoria)にちなんで「イクオリンaequorin 」と命名した。

しかし、イクオリンは青色なのに、オワンクラゲはなぜ緑色に光るのか。
イクオリンを精製した際、緑色に輝く微量の副産物を見つけ、捨てずに分析を続けた。
その正体が緑色蛍光タンパク質(
Green Fluorescent Protein)で、青い光のエネルギーを受け取り、緑の光を放出していることを突き止めた。

イクオリンは、カルシウムと結合し、自らつくり出したエネルギーで青く光る。
GFPはこの時の発光エネルギーを奪って緑色に光る。

(この項は2008.1.14 産経ニュース 【知の先端】による)

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当初はGFPは「美しいだけが取りえで、何の価値もない物質であり、応用なんて全く考えていなかった」。

しかし、GFPはタンパク質だけで自ら発光するため、生体内で作り出せる特徴があり、1994年にChalfie教授らが、ほかの生物の体の中でGFPを光らせることに成功し、医学研究に使えることが初めて明らかになった。

調べたいタンパク質の遺伝子に、GFPの遺伝子を融合させると、その蛍光が目印になり、目的のタンパク質が細胞内のどこに存在し、どのように運ばれるのかといった分布や挙動が、一目で分かるようになった。

がん細胞なら転移や増殖するかどうか、アルツハイマー病なら神経細胞がどうやって壊れていくのか、糖尿病なら膵臓の細胞がどのように血糖値を下げるインスリンを出しているかなどが分かる。

iPS細胞を世界で初めて作製した京都大学の山中伸哉教授も、GFPの目印を付けた4個の遺伝子を皮膚の細胞に入れ、GFPを手掛かりにいろいろな細胞に育つ「万能性」を持つかどうかを見極めた。
慶応大学の岡野栄之教授も万能細胞の一つの胚性幹細胞(ES細胞)から運動にかかわる神経伝達物質ドーパミンを作る細胞だけをGFPで光らせ、効率よく選ぶ手法を開発した。

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下村さんは2001年に米ウッズホール海洋生物研究所を退職後も自宅に研究室を移し、妻と研究を続ける。

研究テーマはもちろん生物発光。「次は光るキノコ。光る理由が分かっていないし、難しくて誰もやろうとしないから。人がやらないことをやるんですよ」という。

下村脩さんは1928年8月、京都府生まれ。1952年、長崎医科大付属薬学専門部(現長崎大薬学部)卒。助手を経て60年、名古屋大で理学博士号を取得、米プリンストン大研究員、名古屋大助教授などを経て、81年、米ボストン大客員教授、82年、米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員。2001年、同研究所退職。

2006年度の朝日賞を受賞している。

米マサチューセッツ州で妻と2人暮らし。子供は1男1女。

なお、長男の下村務氏はコンピュータセキュリティ専門家で、有名なハッカーのKevin Mitnick の逮捕に関わった。
ケビンと下村の対決は、『ザ・ハッカー』(原題:Takedown)のタイトルで映画化されている。  


* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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