« Hexion とHuntsman、合併合意、銀行は融資拒否 | トップページ | 第3四半期 国産ナフサ基準価格決定 »

2008年10月31日 (金)

小説 「エネルギー」

黒木亮の小説 「エネルギー」(上下 日経BP社)を読んだ。
日経ビジネスオンライン(2006/4~2008/6)の連載小説「エネルギー 国際資源を巡る男たちの戦い」に加筆修正したもの。

「国際資源戦争」の最前線を描いた経済小説!
サハリンの巨大ガス田開発、イランの「日の丸」油田をめぐる暗闘、シンガポールの石油デリバティブ巨額損失事件――。
世界中の視線を集める資源開発の現場に切り込み、綿密な取材をもとに描いた野心作。
(日経BP書店のPR)

1997年から2007年までの世界のエネルギー事情と、サハリン-2開発、イランのアザデガン油田開発と、中国航空油料集団の子会社のシンガポールでの石油デリバティブ巨額損失事件のそれぞれの進展が並行的に述べられている。

勿論、小説なので主要登場人物は架空だが、内容は事実に沿っており、それぞれにからむ社名、人名もそのまま出ている。

背景が詳細に説明されており、下巻の巻末には38ページにわたる詳細な 「エネルギー・経済用語集」までついている。

ーーー

1)サハリン-2開発(三菱商事の目で見たもの)

1994年のスタート時点では米国Marathon OilMcDermott が入っていたが、その後前2社が撤退、シェル 55%/三井物産 25%/三菱商事 20% となった

2006年12月、ガスプロムが50%+1株、シェル 27.5%、三井物産 12.5%、三菱商事 10% となった。

       2007/1/9 サハリン2計画 再スタートとその背景 

   (なお、サハリン1については 2006/8/31 サハリン原油の初購入) 

<p><p><p><p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p></p></p></p>

この計画は当初、原油価格低下、LNG買い手探し難航、ロシアの適用諸法律の食い違い等の問題を抱えていたが、更に、環境団体による反対(環境団体は廃止を主張、漁民は事故対策を要求、欧州復興銀行EBRDは環境団体の意見に影響を受ける)、建設費倍増などにより資金集めが難航、加えて過去に外国に渡した石油の権利を取り戻すべく、プーチンが環境問題を種に揺さぶりをかけた。

ロシア側が3社に攻勢をかけた背後には、シェルに不満を持つ英国の老人とその息子Alfred and John Donovan の動きが寄与していた。
二人はインターネットでシェル告発のサイト(小説では別アドレスだが、実際に
http://www.royaldutchshellplc.com が存在している)を立ち上げ、シェル内部からも多数の情報提供がなされている。

Mission Statement
Our objectives are simple. We want Royal Dutch Shell executives to act at all times in accordance with Shell General Business Principles which include the claimed core principles of honesty, integrity, openness and respect for people in all of Shell's dealings.

<p><p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p></p>彼らはプーチンに建設費倍増の情報を、天然資源監督局にはこの計画が環境面で問題であるという情報を送り、ロシア側はそれを材料に攻めたという。

最後はガスプロムの過半数取得により事業が前進するが、環境問題は完全には解決しておらず、場合によっては大事故が起こる可能性も示唆している。<p><p>HTML clipboard</p></p>

「油井とガス井の設計と掘削方法がサハリン島の地層に適していない。鉱区に若い活断層があり、その上に、大量のガスが存在している。適切な掘削技術を用いないと、地震を発生させ、ガス爆発や石油の流出を招来する危険がある。」

ーーー

2)イランのアザデガン油田開発(トーメンの目で見たもの)

1999年に発見されたアザデガン油田はイラン最大級の油田で、カフジ石油を失った日本政府は2000年のハタミ大統領訪日時に両国間で交渉開始に合意し、2001年7月、平沼赳夫経済産業相がテヘランでハタミ大統領と会談し、開発の早期契約に向けて努力することで合意した。
当初の日本側メンバーは、国際石油開発、石油資源開発、トーメンの3社であった。

    2006/10/9 アザデガン油田の開発権引き下げでイランと合意 

しかし、イランの核問題で米国政府の圧力を受け、日本政府は後ろ向きになり、トーメンも豊田通商に合併され、(小説では米国の自動車事業への影響を恐れる奥田会長の命令で)撤退する。

但し、全面撤退ではなく、将来への布石として10%の開発権を残した。
イランは日本がやらないなら、中国があると脅したが、現地の厳しい地形、硫黄分が高い重質油であることから中国では無理で、将来状況が変われば再度取り組むという姿勢。
現実に中国も他の国も乗り出していない。

ーーー

3)石油デリバティブ巨額損失事件(日本のデリバティブ会社のトップの目で見たもの)

中国航空油料集団のシンガポール子会社CAOの中国人社長は「上がった原油価格は必ず下がる」という過去の経験で石油のデリバディブに突っ込み、5億5000万ドルの損失を出して破綻、逮捕された。親会社役員もインサイダー取引や、情報公開規定違反などで捕まった。

日本のデリバティブ会社ではヘッジファンドが原油に手を出しているのは知っているが、裁定取引は常に売りと買いを組み合わせるので、市場に対しては中立なのに、ヘッジファンドや金融機関が一方的にWTI先物を買い続けているのは何故かを調べ、運用難で困ったアメリカの年金基金がコモディティ市場に押し寄せてきていることを知った。

米国では企業年金だけでも4兆ドルを超える規模があり、決済と同時に新たな先物を買い、それを繰り返してポジションを持ちっぱなしにしている。
(この時点でのWTIは80ドル程度だが、その後も上昇を続け、150ドル近くまで上がった。)

このため原油価格が下がることがないと確信、CAOに売り込む一方、CAOに対する債権について銀行から保証を受け、大儲けをする。

ここではヘッジファンドの裁定取引などについて、詳細な説明がある。

ーーー

文中にはLNG市場などの詳しい説明もある。

シンガポールで先物取引で860百万ポンドの損失を出し、Barings Bank を破産させたトレーダーのNick Leeson の話や、銅取引で26億ドルの損失を出した住友商事の部長の話も出てくる。

Nick Leesonが出所して再出発し、ホームページを開いているとの記載もあり、本当かなと思って開いてみると実在していた。http://www.nickleeson.com/


小説としても面白いが、石油事情について勉強になる。


* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


|

« Hexion とHuntsman、合併合意、銀行は融資拒否 | トップページ | 第3四半期 国産ナフサ基準価格決定 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« Hexion とHuntsman、合併合意、銀行は融資拒否 | トップページ | 第3四半期 国産ナフサ基準価格決定 »