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2008年6月 5日 (木)

信越化学、「日経ビジネス」記事に抗議

信越化学は6月2日、「日経ビジネス」6月2日号の特集記事「深層スペシャル 原油200ドルに備えよ―このままでは信越化学が8割減益に―」への抗議を発表した。

見出しならびに本文中に架空試算数値を掲げ、あたかも同社に大幅減益の危険があるかのような著しく誤った印象を読者に与え、投資家、取引先にも少なからぬ不利益をもたらしかねない不当な表現があったとし、猛省を促すとともに、「風評被害」の発生を抑えるために実効性ある対応を早急に実施されることを強く要望するとしている。

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日経ビジネスの特集記事の概要は以下の通り。

深層スペシャル 「原油200ドル」に備えよ 
(タイトル) 原油高で磨く競争力
(サブタイトル)
このままでは信越化学が8割減益に?

「信越化学工業が8割、ユニ・チャームが6割、花王や武田薬品工業が3割の減益にーーー。原油価格が1バレル=200ドルになったら、日本企業の業績はどうなるか。第一生命経済研究所の長濱利廣・主席エコノミストがはじいた試算では、こうなる。」

原油200ドルが営業利益にもたらす影響度 (その中の化学関連の例)

信越化学  -81.37%
花王  -31.44
武田薬品工業  -30.03
住友化学  -22.76
日本触媒  -21.93
三井化学  -10.81
昭和電工  - 9.29
JSR  - 8.66

計算は、「1990年以降の原油価格の動きと企業の売上高やコスト構造の相関関係から」算出したもので、具体的には「営業利益の前年比における売上高要因と変動費要因に対するWTI弾性値(WTIが1%変化すると、それぞれ何%変化するか)を調べ、WTIが200ドル/バレルとなったと仮定した時の営業利益に対する影響度を算出した」としている。

こういう計算は企業が内部資料を使ってやらないと出来ない。セグメント別の変動費も発表されていないのに、どうやって計算したのだろうか。
企業の業態は大きく変化しており、1990年からの企業のコスト構造などは企業の今後の予想に関係あるとは思えない。

信越化学や武田薬品工業は石油の使用は大きくなく、何故この数値になるのか、理解しがたい。

サブタイトルとは異なり、記事の中では、信越化学については次ぎのように肯定的に述べている。

もっとも、卓越した相場観と少数精鋭のスピード経営で知られる金川社長のこと。現状に手をこまねいているわけではない。塩化ビニール事業では、競合他社が大幅減益に陥る中で、欧州への輸出などで米工場のフル操業を維持し、300億円超の経常利益を確保した。厳しい環境だが、「知恵と努力で乗り切る」と金川社長は力を込める。

そして、結論は以下の通り。

(石油ショック時のように)この未曾有の事態を危機と捉えるか、競争力を磨く機会とするかで、未来は変わってくる。

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信越化学が記事に関して問題と考える点は以下の通り。

【原油価格高騰の同社への影響について】
  同社では原油を原料とする製品より、地球上に無尽蔵にあるケイ石を出発原料とする製品が大きな割合を占めており、原油が200ドルとなった場合でも、他の会社より影響が大きいとは考えられない。
   
【日経ビジネス誌当該記事の問題点】
(1) 試算数値
  当該記事では、「試算」の算出意図も計算根拠も明示しておらず、同社の業績見通しとは関わりのない架空の条件下での数値。
試算の数値を個別企業の業績とことさらに結びつけた形でクローズアップする意味はない。
   
(2) 同社名を見出しに使用した点
  当該記事は大見出しの上に赤文字で「このままでは」同社が大幅減益に陥るかのような表現が使われている。
1)同社が特に見出しで言及される必要性や必然性をまったく見出しえない。
2)「このままでは」という表現が、具体的に何を指しているのか不明で、同社が大幅な減益に陥るかのような印象を与えている。
   
(3) 同社の業務実態に対する誤った記事内容
  当該記事中では、「石油を大量に使う化学メーカー」としているが、直接石油系原料を使用しているのは塩ビ系事業に限られる。
 塩ビは原料構成比は6割が塩であり、石油化学系樹脂の中ではきわめて石油使用量が少ない素材。
 また、米国シンテック社では、原料は石油ではなく天然ガス由来。
   
(4) なんら取材を行わず当該記事を作成した点
   

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信越化学のセグメント別営業損益内訳は下図の通り、シリコンウェハーなどの電子材料の貢献が大きく、石化(塩ビ)の比率は小さい。

    2008/5/2 2008年3月期決算 信越化学好調

塩ビの営業損益の減少はShintech 減益が主な理由だが、原油値上がりのためではなく、米国の住宅不振が影響したもの。それでもShintech は同業他社が稼働率を落とし大幅な減益や赤字に転落する中で、輸出で補完してフル操業を行い、300億円を超える経常損益を確保した。
同社のエチレンの原料は石油からのナフサではなく、米国のエタンであり、値上がり度合いは異なる。

住友化学のサウジのラービグ計画も原料はエタンで、価格が安定しているため、「原油価格が上がればそれだけ有利になる」(住友化学)。    

原油が200ドルになっても、利益 8割減などあり得ない。

原油200ドルの影響を説明するのに、信越化学は適当な例ではなく、数値の計算、タイトルなどは問題で、同社の主張は当然である。
こういう数字を出す以上は、計算根拠や前提も示すべきである。

 


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


    2008/5/2 2008年3月期決算 信越化学好調 

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