チッソの弁明
チッソのホームページに「水俣病問題への取り組みについて」というページが出来た。
http://www.chisso.co.jp/topics/minamata/index.html
同社が与党プロジェクトチームの水俣病未認定患者の新救済策を拒否し、解決のメドが立たなくなっているが、これについて過去の経緯の説明と拒否の理由が述べられている。
2007/11/23 チッソ、与党プロジェクトチームの水俣病未認定患者の新救済策を拒否
関係者は2008年5月1日の水俣病犠牲者慰霊式までの新救済策合意を目指し、4月24日に鴨下環境相、4月28日に熊本県知事が後藤会長と会談したが、チッソ側は拒否した。
水俣病については、チッソは、
①認定患者対しては、1973年の協定により継続的に補償を実行した。
2,268名の認定者に対し、合計1,390億円
補償協定の概要
項目 内容 一時金 Aランク 1,800万円/人+近親者慰謝料(最高1,900万円)
B 1,700 +近親者慰謝料(最高1,270万円)
C 1,600年金 170~67千円/人・月 医療費 患者医療費全額を支払い その他
継続補償医療手当、介護費、温泉治療費、針灸、葬祭費
患者医療生活基金(チッソが7億円拠出)からの支給年間補償金支払額 約27億円
②非認定者(公的機関により水俣病ではないとされた患者及び審査の結論が出ていない患者)に対しては、1996年の和解にて解決を図った。
約1万人の未認定患者を対象に、四肢末端優位の感覚障害がある場合は「医療手帳」、感覚障害以外で一定の神経症状がある場合は「保健手帳」を交付。
医療手帳はチッソから一時金260万円、国・県から医療費自己負担分全額、月額約2万円の療養手当などを支給。
保健手帳は医療費自己負担分などを上限付きで支給してきたが、関西訴訟最高裁判決後に医療費自己負担分は全額支給に改めた。
同社によると、水俣病関連損失の累計は以下の通りとなっている。
水俣病関連損失累計(2007/9/30現在、億円)
項目 既支払額 補償金 1,393 公害防止事業 310 解決一時金 317 債務免除 -270 漁業補償等 62 県債金利 1,028 合計 2,840
チッソは1973年の補償協定締結後に認定申請者が急増し、77年度には364億円の累積赤字を計上した。
そのため、熊本県が県債を発行してチッソに融資する金融支援が閣議了解された。
水俣湾のヘドロ立て替え県債、未認定患者への一時金支払いの貨し付けなど、公的債務は99年に1,257億円にまで増加した。チッソの返済が困難となり、県の負担が問題になったため、1999年6月、関係閣僚会議申合せ「平成12年度以降におけるチッソ㈱に対する支援措置」が提示された。
これに基づいてチッソは金融機関に支援を要請、2000年1月、再生計画を発表した。2006/5/1 水俣病50年
ほとんどの患者が和解に応じ裁判を取り下げたが、唯一「関西訴訟」の原告だけが行政の責任を問い続け、2001年の高裁判決は、排水規制をしなかった国と県の過失を指摘、水俣病の認定基準も間違っているという判断を下した。
また、最高裁も原告の主張を認め、県と国の法的責任が確定した。
これによって、行政責任を不問にした「和解」の前提が強く揺さぶられる事態を迎えた。0
最高裁判決が一部国の責任を認めたことで、公害健康被害者補償法上の認定を申請する患者が急増したが、熊本、鹿児島、新潟3県の認定委員会は、認定基準が変わらない以上、多くは不認定となる可能性は高く、不認定になった人たちを手当てする何らかの受け皿的措置がなければ認定を再開することが難しいとして、判定されないままになるという異常事態が生じた。
このため公明党が2006年4月に新救済案の提言をまとめ、それを基に与党PTを設置し、紆余曲折の結果、新救済策を決定した。
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チッソの拒否理由は以下の通り。
(1)解決への展望が持てない
新たな訴訟の提起
96年に全面解決した。今後も繰り返される懸念
(2)訴訟上の主張と矛盾する
訴訟では個々人毎の明確な立証を求めており、本案の受諾は訴訟にマイナスの影響を及ぼす。
(3)支払能力上の問題
更なる借入は後の世代に現状以上の負担を残すこととなり、今後の展望が描けない。
(4)株主をはじめ従業員や金融機関などに説明ができない。
チッソの最近の連結決算は以下の通り。(億円)
2008年3月期は、液晶、電子部品など機能材料事業が液晶ディスプレイ市場の成長により引続き好調に推移し、営業損益、経常損益ベースでは4期連続の増益となった。
売上高 営業
損益経常
損益特別損失のうち 法人税
等当期
損益水俣補償 公害防止
事業費負担減損損失 05/3 1,507 121 124 -45 -12 22 42 06/3 1,996 161 170 -43 -15 -121 -0 1 07/3 2,170 188 191 -42 -9 31 123 08/3 2,697 208 202 -40 -8 46 108 2008/3/末 未処理損失 -1,169億円(資本金 78億円、資本勘定 -991億円)
* 累積損失は大きいが、5年の損失繰越期限があるため、法人税は支払っている。
現時点では、労務費も金利も支払い、補償金も支払い、法人税も支払った後で、高収益をあげている。
要は「支払能力」がないのではなく、この利益を借金の早期返済や新規事業に回して将来の発展を期すのか、患者に支払うのか、の問題である。
同社は最後に以下の通り述べている。
「これまで半世紀を越える長期間、必死に、誠実に補償責任を果たし、96年には水俣病問題の早期解決、最終的全面的解決のために思い切った解決努力を払いました。こうした経緯の上に立った現在、水俣病発生の「原因者だから」といった単純な理由だけで、この種の支出に応じることはできないことをご理解いただきたいと思います。」
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今も苦しむ患者やその家族、遺族側の立場で考えると、チッソの「努力」は当たり前のことであり、水俣病発生の「原因者だから」といった単純な理由だけで、この種の支出に応じることはできないとのチッソの主張は到底理解できないであろう。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
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