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2008年3月 6日 (木)

薬害エイズ事件、最高裁判決

薬害エイズ事件で、エイズウイルス(HIV)に汚染された非加熱血液製剤の回収指示などを怠ったとして、業務上過失致死罪に問われた元厚生省生物製剤課長、松村明仁被告に対し、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は3月3日付で、上告を棄却する決定を出した。

禁固1年、執行猶予2年とした1、2審判決が確定する。

官僚個人の「不作為」が初めて罪に問われ最高裁で有罪が確定するのは初めて。小法廷は「薬務行政上必要かつ十分な対応を図るべき義務があったことは明らか」と指弾した。

   薬害エイズ事件及びこれに関する他の訴訟については  
         
2008/1/24 資料 薬害エイズ事件 

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1996年10月、2件の被害事実について、厚生省の元生物製剤課長である松村明仁が、業務上過失致死罪で東京地裁に起訴された。

  ①帝京大病院で1985年5-6月に非加熱製剤を投与された血友病患者の死亡(帝京大ルート)
  ②大阪医科大学附属病院で
1986年4月に旧ミドリ十字の非加熱製剤を投与された肝臓病患者の死亡(ミドリ十字ルート) 

2001年9月、一審判決が出た。
地裁は非加熱製剤の危険性を認識できた時期を1985年12月末と判断し、①については無罪とした。
②については有罪で、禁固1年、執行猶予2年とした。(双方が控訴)

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2005年3月25日、東京高裁(河辺義正裁判長)の判決が出た。 

裁判長は非加熱製剤の危険性を認識できた時期を一審判決と同様に1985年12月末と判断した。

(1)85年3月に旧厚生省の専門家会議で初めてエイズ認定がなされた
(2)85年12月の同省審議会で「安全な加熱製剤が承認されたときには非加熱製剤は使用させないようにすべきだ」との意見が出た。
   85年12月下旬には安全性の高い加熱製剤が承認され、供給可能量に達していた。(加熱製剤への切り替えが可能)

①(1985年5-6月投与)については、「患者が感染した当時は、大多数の医師が加熱製剤への転換を提唱していなかった。非加熱製剤の投与を控えさせるように方針転換するのは現実的に不可能だった」として、一審判決と同様に無罪。

②(1986年4月投与)については、「危険な製剤の投与を控えさせる最後の手段を怠った」として有罪と認定、一審東京地裁判決を支持、被告、検察側双方の控訴を棄却した。

弁護側は「原則として公務員の権限行使に法的義務はない」としたが、裁判長は、「当時は(危険を回避するための)権限行使が裁量の余地のない状況に至っていた」、「製薬会社を通じて医師に危険情報を提供し、非加熱製剤の投与を控えさせることが不可欠だった」と松村被告の刑事責任を認定した。

これに対し、松村被告は上告したが、東京高検は上告期限である2005年4月8日、刑事訴訟法上の上告理由が見当たらなかったなどとして、上告を正式に断念したと発表した。
これにより、①については無罪が確定した。

上告理由は限定されており、刑事訴訟法・民事訴訟法によってそれぞれ限られている。

 刑事訴訟法405条

  • 判決に憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤りがあること(1号)
  • 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと(2号)
  • 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又は刑事訴訟法施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと(3号)

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今回最高裁は、被告と弁護人の上告趣意は実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であり、上告理由に当たらないとして棄却した。

その上で、業務上過失致死罪の成否について職権で判断した。要旨は次の通り。

行政指導自体は任意の措置を促すものであり、薬害発生の防止は一次的には製薬会社や医師の責任で、国の監督権限は二次的・後見的なもの。
これらの措置に関する不作為が公務員の服務上の責任や国の賠償責任を生じさせる場合があるとしても、これを超えて公務員に個人としての刑事法上の責任を直ちに生じさせるものではない。
   
しかし、当時広範に使用されていた非加熱製剤中にはHIVに汚染されていたものが相当量含まれており、HIVに感染してエイズを発症する者が出現し、いったんエイズを発症すると有効な治療の方法がなく、多数の者が高度のがい然性をもって死に至ること自体はほぼ必然的なものとして予測された。
  しかし当時は同製剤の危険性についての認識が関係者に必ずしも共有されていたとはいえず、医師や患者においてHIV感染の結果を回避することは期待できなかった。
   
同製剤は、国によって承認が与えられていたものであり、国が明確な方針を示さなければ引き続き安易な販売や使用が行われる恐れがあった。その取り扱いを製薬会社等に委ねれば、その恐れが現実化する具体的な危険が存在していた。
   
このような状況の下では、薬務行政上、その防止のために必要かつ十分な措置を取るべき具体的義務が生じたといえるのみならず、刑事法上も、非加熱製剤の製造、使用や安全確保に係る薬務行政を担当する者には、社会生活上、薬品による危害発生の防止の業務に従事する者としての注意義務が生じていた。
   
被告は、非加熱製剤が生物製剤課の所管に係る血液製剤であることから、厚生省における同製剤に係るエイズ対策に関して中心的な立場にあった。厚相を補佐して、薬品による危害の防止という薬務行政を一体的に遂行すべき立場にあったのであるから、被告には、必要に応じて他の部局等と協議して所要の措置を取ることを促すことを含め、薬務行政上必要かつ十分な対応を図るべき義務があったことも明らかである。
   
非加熱製剤の販売中止・回収や、医師に不要不急の投与を控えさせる措置を取ることを不可能または困難とするような重大な法律上または事実上の支障も認められないのであって、被告においてその責任を免れるものではない。
   

* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。


 

 

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