米国の薬害裁判
さきにBayer の失血予防薬 Trasylol (Aprotinin) の薬害問題について報じた。
2008/2/21 Bayer の薬害問題
Product Liability で厳しい米国で、被害者からの損害賠償請求がどうなるのだろうと思っているときに、ある判決が出た。
事件はWarner-Lambert Co. v. Kent と呼ばれるが、Warner-Lambert の糖尿病の処方薬 Rezulin に関するもので、1997年にFDAの承認を得たが、これによる死亡が63件に達し、2000年にFDAの指示で販売停止となった。
ミシガン州の糖尿病の患者27人が肝機能障害でWarner-Lambert を訴えた。
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この裁判の問題は2点ある。
米国ではFDAが承認した薬品についてはProduct Liability の訴訟は認められていないが、FDAの承認を得るときに fraud (不正、ごまかし)があった場合はどうかということである。
2001年のBuckman v. Plaintiffs' Legal Committee 事件で最高裁はこの場合も訴訟を認めないという判断を示した。
Rehnquist 最高裁長官は、fraud に対してはFDAに処罰や是正の権限が与えられており、FDAに任せるべきであり、訴訟はFDAの処分を歪曲することになるとした。
もう一つは、連邦法が州法に優先するのかどうかという問題である。この問題は Pre-emption と呼ばれる。
ミシガン州法によれば、FDAが承認した薬品についてはProduct Liability の訴訟は認めないが、FDAの承認を得るときに fraud があれば訴訟が認められるとなっている。
これと上記の最高裁の判例と、どちらが優先するのかという問題である。
最高裁は本年2月、Medtronic v. Riegel 事件で連邦法優先の判決を出した。
血管形成手術を受けた患者(Charles Riegel )が医者が規定以上の圧力をかけたためバルーンカルーテルが破裂し重傷を負ったとしてカルーテルのメーカーのMedtronic を訴えた裁判で、医療器具に関してはFood, Drug, and Cosmetic Act の医療器具修正条項で明確に州法に優先すると記載されているのが理由であった。
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この事件で、第一審ではミシガン州法よりもFDAにfraud の処罰の権利を与えた連邦法が優先するとして却下された。
しかしニューヨーク連邦控訴裁判所は逆転判決を出した。
ミシガン州法はfraud の処罰を決めたものではなく、製造業者の不正により市場に出た製品で被害を受けた消費者に製造物責任の訴訟をする窓口を造るだけのものであるとした。
3月初めの本件の最高裁の協議では判断が4対4となり、結論が出なかった。
John Roberts Jr. 最高裁長官が被告のWarner-Lambert の親会社のPfizer の株式を所有しているため、棄権せざるを得なくなったためである。
最高裁で控訴審判決を否定できなかったため、控訴審判決が有効となった。
但し、最高裁で決定に至らなかったため、判例とはならない。
この秋に予定されているWyeth v. Levine でどんな判決がでるかが注目されている。
Diana Levine が偏頭痛によるめまいで病院に行った。医者はWyeth 製造の薬 Phenergan * を腕に注射した。
*塩酸プロメタジン、抗ヒスタミン剤で吐き気止めに使われる。
めまいが治らないため医者は静脈注射を行なった。薬が動脈に接触し、壊疽をおこし、腕を切断せざるを得なくなった。薬のラベルには動脈に触れると壊疽をおこすので注意が必要と明記されている。静脈注射については触れておらず、FDAも静脈注射によるリスクについてラベルに書くようには指示していない。
バーモント州の陪審員は静脈注射のリスクが書かれていないとして、670万ドルの賠償を命じた。
州最高裁もこれを認めた。
この判決次第では、少なくともミシガン州のTrasylol の被害者はBayerを訴えることができるかも知れない。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
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