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2008年1月 5日 (土)

アラビア石油、カフジ撤退

アラビア石油は1月4日、クウェート・カフジ油田の操業から撤退した。カフジ油田は日本企業にとって戦後初の自主開発油田だったが、半世紀に及ぶ元祖「日の丸油田」の役割を終える。

アラビア石油はサウジとクウェートの旧中立地帯で、1957年に(前身の日本輸出石油が)サウジの採掘権を、1958年にクウェートの採掘権を取得、1960年1月にカフジ油田を発見して 1961年2月に生産を開始した。1963年11月にはフート油田を発見した。

アラビア石油はここで日本の石油消費量の5%に相当する日量27万バレルを生産して日本に持ち込み、エネルギーの安定調達に大きく貢献してきた。
(原油累計生産量は約39億バーレルに達し、その内、約28億バーレルを日本向けに供給)

しかし政府の全面的な後押しを受けて臨んだサウジとの権益更新交渉に失敗して2000年2月にサウジの利権協定が終了、2003年1月にはクウェートとの利権協定も終了した。

その後はカフジの操業は両国の国営石油会社子会社の共同操業に移行し、アラビア石油はKuwait Gulf Oil との技術サービス契約で、人員を派遣、技術、経営管理等のサービスを提供する形で共同操業に参画してきたが、今回、この契約の更新が出来なかった。

クウェート石油公社との間では2023年1月まで、最低日量10万バーレルのカフジ原油・フート原油あるいはクウェート原油の売買に関する取り決めを結んでおり、これは今後も継続する。
また、同社では両国政府の期待に沿って、クウェート国内において引続き事業を遂行する方策につき、クウェート政府当局との間で協議を継続している。

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立地

1922年12月に結ばれた国境協約(ウカイル協定)で、中立地帯が設定された。土地を両国で分割せず、双方が平等に半分ずつの権利を持つというもので、双方の遊牧民は自由に出入りできるとされ、両国が行政義務を果たすこととなった。

しかし、弊害が大きいので中立地帯は解消されることになり、1970年に南北に分割された。
但し、石油など天然資源の利権は引き続き双
方で平等に配分した。

2000年になって、サウジアラビアとクウェートは旧中立地帯の石油利権区域についても両国で境界線を定めて分割した。

  中立地帯地図は http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/zatsu/churitsu.html

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アラビア石油は “アラビア太郎” と呼ばれた山下太郎により設立された。

山下太郎は戦前の満州に進出、南満州鉄道の社宅建設などにより巨万の富を手にし、“満州太郎”の異名を得た。

1956年、「日本輸出石油株式会社」を設立し、石油の加工貿易を志した。
丁度、サウジが石油開発利権の分散政策を採ることを決め、未開発地域開発に日本の進出を求めていることを知り、サウジに飛んで交渉開始の覚書を交わし、帰国して財界を説得した。
1957年6月に政府が油田開発の閣議決定を行い、山下の事業を全面支援することとした。
1958年2月に電力、鉄鋼、商社など40社が参加し、アラビア石油が設立された。

メジャーが権利を押さえていない場所はサウジとクウェートの中立地帯の海底油田だけであった。
利権交渉は難航したが、1957年12月に協定を締結した。

引き続き、クウェートとの交渉を行ない、メジャーや独立系石油会社との競合となったが、1958年5月に契約を締結した。

  サウジ クウェート
探鉱期間の鉱区レンタル料 年額 150万ドル(540百万円) 年額 150万ドル(540百万円)
商業量発見後の年間最低支払額 250万ドル(900百万円) 250万ドル(900百万円)
利益配分率  サウジ側 56% クウェート側 57%
* それまでは利益分配率は50%が慣例であった。

アラビア石油の資本金は35億円しかなく(1959年に半額増資で52.5億円)、両国へのレンタル料その他を払うと、試掘井は1本しか認められなかった。(メジャーでさえも、油を掘り当てる確率は100本掘ってわずか3本なのに)

1959年7月に試掘が開始されたが、8月に暴噴が発生、火災が10日間続き、ダイナマイト爆破で消火した。

修理費は保険でカバーされたが、資金が切れた。このため、取締役会で100億円への増資決議を行い、議事録を担保に日本興業銀行から35億円のつなぎ融資を取り付けた。

燃えた掘削船を修理し、11月に試掘を再開した。

1960年1月、掘削に成功、カフジ油田と命名された。

1961年3月、第一船 鵜戸丸に22,958klの原油が積み出され、日本鉱業・水島製油所に送られた。

その後、1963年11月にフート油田が発見された。

更に、1967年2月にはルル油田、11月にはドラ・ガス田が発見されたが、これらはイランとの国境問題などで操業に至っていない。

   資料 NHKライブラリー「プロジェクトX⑩ 夢遥か、決戦への秘策」より、「炎のアラビア」

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2000年2月に40年の期限が切れ、サウジの利権協定が終了した。

サウジ政府は1990年代から、カフジ油田の利権は例外的な外国への特別扱いとし、よほどの日本側の見返りがなければ、延長を認めるわけにはいかないと、繰り返しアラビア石油に示唆していた。

サウジ政府は利権延長の条件として、日本側の資金提供による総額 2,000億円の鉱山鉄道を敷設するよう要求した。
アラビア石油が期限切れの際の設備接収リスクを恐れて維持・開発投資を手控えてきたため、原油の生産コストが高く、その分だけサウジ側が獲得できる利益が損なわれるので、利権を約30年延長するなら、その間の減収分を鉄道建設を通じて補償してほしい、というものである。

しかし、日本側は鉄道建設は採算性が見込めないとして拒否し、交渉は決裂した。

利権協定の期限は当初から決まっており、それに対して手を打ってこなかった後継首脳(天下り官僚)に対する批判がある。
  
アラビア石油破綻事件の深層  http://www2.tba.t-com.ne.jp/dappan/fujiwara/article/zaikai0104.htm

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サウジの利権協定終了後は、アラビア石油はクウェート政府との利権協定に基づきクウェート側の権益を代表するオペレーターとして、サウジ側の権益を代表する Aramco Gulf Operations との共同操業を行った。

並行して、2003年1月4日に終了するクウェート政府との利権協定以降の同国との新たな関係構築に向けて、同国政府と約2年間にわたり協議を重ねた。

1962年に制定された現行のクウェート憲法は外資への所有権付与を禁止しているため、アラビア石油は油田を直接所有するのではなく、操業権を維持する方向で交渉を進めたが、クウェート議会が操業権も憲法違反との解釈を示した。

この結果、油田で産出する原油と生産設備の所有権は2003年1月に失うが、クウェート政府から操業を受託する契約を結ぶこととなり、産出した原油の大半も同国から仕入れる形で日本へ輸入できることとなった。

2003年1月5日以降、カフジ操業はKuwait Gulf Oil と Aramco Gulf Operations のカフジ共同石油操業機構による操業へ移行
     
  アラビア石油とクウェート側の契約 
  技術サービス契約(5年間、双方の合意により、さらに5年間の更新を重ねることが可能)
    Kuwait Gulf Oilへの人員派遣による広範な技術、操業管理業務の提供、教育訓練等の諸サービスに関する取り決め
     
  原油売買契約(2003年1月5日から20年間)
    最低日量10万バーレルのカフジ原油・フート原油あるいはクウェイト原油の売買
     
  融資契約
    Kuwait Gulf Oil の分割地帯沖合操業に要する投資資金の融資
     

アラビア石油は5年間で切れる同契約の更新に向け交渉を進めてきた。

しかしながら、操業経験を積んだクウェートは、人件費の高い約50人のアラビア石油社員を自国技術者に置き換えた方が得策と判断、今回の打ち切りとなった。

これで「日の丸油田」に幕が降りることとなった。

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アラビア石油と富士石油は2003年1月31日に、株式移転により完全親会社 AOCホールディングスを設立した。

アラビア石油では現在、中国南シナ海およびノルウェー領北海において石油の開発・生産事業を行っている。

  ・新華南石油開発株式会社(珠江口沖プロジェクト)

設立:1985年12月12日
出資:アラビア石油 83.7/富士石油 0.6%)

新南海石油開発(石油資源開発 82%出資)および日鉱珠江口石油開発(ジャパンエナジー95%出資)との共同事業により発見した陸豊13-1油田(権益30%)において、1993年10月より原油の生産を開始し、現在、日量11千バーレルの水準で生産を行っている。

  ・Norske AEDC AS (ノルウェー領北海プロジェクト)

設立:1988年3月28日
出資:アラビア石油 100%

1990年6月より原油の生産を開始したギダ油田(権益比率5%、オペレーターはTalisman)において、現在、日量14千バーレルの水準で生産を行っている。

このほか、エジプトのスエズ湾で2件の開発を行なっている。

  ・ノースウェスト・オクトーバー鉱区(100%権益)
     2006年9月に試掘に成功、開発計画をエジプト石油公社と協議中。

  ・サウス・ゼイト・ベイ鉱区
     2007年10月、スイスのALEXOILから90%の権益を取得することにつきエジプト政府承認取得
     試掘第1号井(陸上)掘削中

 


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
  

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