PESとPEEK
住友化学は9月1日、ポリエーテルサルホン(PES)の増強を発表した。
同社は愛媛工場で本年7月に、2,000トン/Yから2.500トン/Yに増強したばかりだが、航空機用途の特殊グレードを中心に3,000トン/年に増強する。
PESは、200℃の耐熱性を持つ一方で、寸法安定性、耐水性に優れ、バランスのとれたスーパーエンプラとして、電子電気部品を中心に自動車部品、医療機器、航空機、分離膜、耐熱塗料などの分野で需要が増大している。
航空機向けでは炭素繊維複合材に配合し、炭素繊維をつなぎ合わせる材料として用いられている。航空機用途の炭素繊維複合材料は、近年、燃費削減のための航空機の軽量化を目的に、航空機1機当たりの使用量が、従来の3~4倍にまで増加しており、PESの需要も急激に伸長している。住友化学は、航空機用途として現在世界で唯一認定を受けている。今回の増設の完成後の航空機用特殊グレードの生産能力は約1,000トンとなる。(炭素繊維については次回)
PESはICIが開発したエンプラで、住友化学は1978年にICIと再販契約を結び、輸入販売を開始した。
しかし、ICIが1992年にPES事業から撤退することを決めたため、国内需要の増加を考え、ICIから技術導入を行い、愛媛工場内にアジアで初の製造設備を建設した。
その後、日本では三井化学がPESの製造販売を行っている。
ICIはPESのほか、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性を有し成形加工性にも優れた熱可塑性の芳香族系エンプラのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)も開発している。
住友化学はPEEKについても1982年にICIと再販契約を結び、輸入販売を開始した。
ICIは1993年に同事業をMBOにより設立されたVictrex Ltd. に売却、住友化学は引き続き、Victrexから輸入販売している。
同社では独自のコンパウンド技術を活かした用途向けに販売している。耐疲労性と耐薬品性に優れ、240℃~260℃での常用使用が可能な樹脂として、半導体およびLCD製造設備、自動車部品などに需要が伸長している。
三井化学は1998年にVictrexとのJV、ビクトレックス・エムシーを設立し、日本での輸入販売を行っている。
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海外の両樹脂の状況は以下の通り。
Victrex
Victrexは上記の通り、ICIからMBOで独立した会社でPEEKのメーカー。
2004年の世界のPEEKの需要は1,850トンとみられており、98%を同社が供給する。
PEEKの需要分野別内訳は次の通り
Electronics 32%
Transports 29%
Industrial 28%
Medical 8%
Others 3%
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BASF
BASFは1990年以降、耐熱性樹脂のポリエーテルスルフォン(PES)とポリスルフォン(PSU)を、それぞれ、Ultrason E、Ultrason S のブランドで製造販売している。
同社は本年5月、ルートヴィッヒスハーフェンのUltrason の製造設備を倍増し、年産12千トンに引き上げると発表した。物流・梱包センターの新設と合わせ、5000万ユーロを投資する。近年、Ultrasonの新しい用途開発が世界各国で積極的に行われており、生産能力を増強することで、世界的な需要の伸びに対応するとしている。
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Solvay
米国では当初、AmocoがPES、PSU、PPSU (Polyphenylsulfone)、 Polyphthalamide、LCP、Polyamide-imide、Polyketone などのエンプラの製造販売を行っていた。
(日本では帝人がAmocoとのJVのTeijin Amoco Engineering Plastics で輸入販売を行っていた)
2000年12月、SolvayはBP Amoco とMOUを締結、SolvayのPP事業と、BP Amoco のエンプラ事業を交換することとした。
このほか、両社は欧州の両社のHDPE事業を統合して 50/50のJV BP Solvay Polyethylene Europe を設立、また米国のSolvayのHDPE事業をSolvay 51%/BP 49% のBP Solvay Polyethylene North America とした。(2004年 Solvay は両社の持分をBPに売却した)
Solvayは子会社Solvay Advanced Polymers を設立、エンプラ事業の世界のトップとなった。(帝人とのJVは解散)
1967年設立のインドの農薬メーカー、Gharda Chemicals Limited は1996年に特殊樹脂プラントを建設し、1997年にPES、引き続き、2000年にPSU、2001年にPEEK、2002年にPPSU、2004年にPolysuper Sulfoneの製造を始めた。
Ghadaによると、2005年時点で、PESではSolvay、BASF、住友に次いで4位、PSUではSolvay、BASFに次いで3位、PEEKではVictrexに次いで2位であるとしている。
ICI/VictrexのPEEKの製法が、2種類のモノマーを340℃で反応させるのに対して、同社の製法は1種類のモノマーを低温で反応させるもので、副生物も水と少量のナトリウム、カリウムだけで、環境に優しく、低コストであるとしており、インドのほか英米で製法特許をとっている。
またPEEK、PES、モノマーの製造を統合している。同社ではPEEK能力を80トンから180トンへ、更に2007年頃には500トンにアップするとしていた。
2005年12月、SolvayはGhardaからポリマー部門を買収する契約に調印した。Solvayでは両社の事業の統合で特殊ポリマーにおけるワールドリーダーになるとしている。
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Degussa
2005年6月、Degussa は中国の吉林大学と提携してPEEK、PES事業に進出すると発表した。
長春にある吉林大学の子会社の長春吉大高新材料有限公司の80%を取得し、JIDA Degussa High Performance Polymers Changchun Co. Ltd. (JIDA Degussa) とし、吉林大学の技術で PEEKとPESを製造する。Degussaでは年初から共同開発・製造・販売の申し入れをしていた。
Degussaではまず、PEEK 500トン、PES 300トンの製造を始めるとしている。
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付記 2006/10/16
ソルベイは10月16日、インドのGujarat州Panoliの製造設備を拡張し、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)や高機能特殊樹脂のワールドクラスの製造基地にすると発表した。2008年第1四半期にKetaSpire(R)ブランドのPEEK 年産500トンをスタートさせる。
ソルベイは本年初めにGharda を取得しPEEKの市場に参入、米国の研究所での研究成果を折り込んで、今回の増設に到ったもの。
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コメント
ダイセルの久保田首席技師とはなにものぞ。
投稿: 自動車分関連 | 2017年12月18日 (月) 23時45分
トライボケミカル反応の新理論を提示されている方だと思います。
投稿: 某学生 | 2018年2月 5日 (月) 08時47分
ダイヤモンドがオイルから生成されるので摩擦部品の摩耗がおこるとを主張している理論(CCSCモデル)ですね。
この前の内燃機関シンポジウムそうとう盛り上がったそうです。
投稿: 播磨っち | 2019年2月19日 (火) 07時07分