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2006年2月20日 (月)

競争政策研究会の「企業結合審査における改革の進展状況と今後の課題」

経済産業省は1月30日に競争政策研究会の「企業結合審査における改革の進展状況と今後の課題」を発表した。公取委の企業結合審査の状況を分析している。
http://www.meti.go.jp/press/20060131005/3-kyousouken-hontai-set.pdf

その中で、PSジャパンと大日本インキ化学工業によるポリエスチレン事業の統合を例に、問題点を指摘している。
公取委の「競争を実質的に制限する恐れがある」との指摘により結局統合を諦めたが、その指摘のポイントは「輸入品による競争圧力が認められないこと」である。

競争政策研究会は、
・企業結合審査において循環的な需給要因を考慮すべきかどうか
・需給要因の継続性についてどのように考慮すべきか(今後の需給状況をどう評価するか)
・輸入品の価格競争力をどう評価すべきか
を問題点として挙げている。

A&Mスチレン(旭化成と三菱化学の事業統合会社)と出光石化はPS事業を統合して2003年4月にPSジャパンを設立したが、これは公取委が問題なしとしている。
2004年6月、PSジャパンと大日本インキ化学のPS事業と統合を発表したが、今回は公取委が競争を実質的に制限する恐れがあるとの指摘を行った。
両者の判断は短期間になされたもので国内の状況判断には差はないが、輸入品の見方が全く異なっている。

前者のケースでは以下の通り述べている。http://www.jftc.go.jp/ma/jirei/14nendo.pdf

輸入
 ポリスチレンは,国内品と輸入品との間で品質差はなく,また,ペレット状の固形物であり,輸入に当たっての運搬・取扱いは容易である。また,国内の流通においても,実際に輸入品を取り扱う商社等が存在し,国内品とほぼ同様の販売・配送が可能となっていることから,ユーザーは国内市況と海外市況の状況に応じて国内品から輸入品に切り替えることは容易であるとしている。また,国内への主要な輸入元であるアジア地域のメーカーの供給余力は,国内需要を上回っている状況にある。
 このような状況の下,ユーザーは,国内市況と海外市況の状況に応じて,輸入品の購入割合を増減させたり,今後,国内市況と海外市況との差が縮小した場合には,輸入品の調達を再開するとしている。
 現状では,輸入品の割合は約5%に過ぎないものの,輸入に関する前記の状況を考慮すれば,国内品の価格の状況に応じて,輸入品が増加する蓋然性が高いものと考えられ,輸入圧力が当事会社に対する有効な牽制力となると考えられる。

独占禁止法上の評価
 ポリスチレンは,競争事業者や輸入の供給余力があり,取引先の変更も容易となっている。さらに,輸入が容易であり,国内品の価格の状況に応じて輸入量が増加する蓋然性が高く,輸入圧力が一定程度働いていると認められることから,本件統合により,
ポリスチレンの取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと考えられる。
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後者では一転して以下の通りとしている。http://www.jftc.go.jp/pressrelease/05.april/05040102.pdf

輸入の状況
 PSの輸入は,内外価格差の大小にかかわらず大きな変動はなく,輸入比率はおおむね3~6%程度で推移しており,主として,韓国,台湾から輸入されている。

 関税率は,過去,段階的に引き下げられており,GPPSでは平成7年には11.2%であったが,現在は6.5%と約半分に,HIPSは,同4.6%から3.1%へ引き下げられている。ただし,関税率の引下げが輸入量の増加をもたらしていない状況が見られる。
 現在,中国におけるPSの需要増加による供給不足を背景として,日本への主な輸出国である韓国,台湾等のアジア各国で生産されたPSの多くが中国向けに輸出され,日本向けの輸出が増えない状況である。今後,中国国内においてPSプラントを増設する計画があるが,PSの原料であるSMについてもアジア全体で供給不足が継続する見込みであるため,この傾向は当面継続される見込みである。

考慮事項   詳細略
1  供給余力がない中で一層高度な寡占市場となること
2  輸入品による競争圧力が認められないこと
 (1) 品質等の面における問題があること
 (2) 供給面の問題があること
 (3) 輸入品・国内品の価格差が輸入量の増減に影響を与えていないこと
 (4) 輸出国から日本向けに供給される蓋然性が低いこと
3  新規参入の蓋然性が認められないこと

4  隣接市場からの競争圧力が認められないこと

本件行為による競争の実質的制限の評価
1)単独行動による競争の実質的制限の評価

 現在の国内の製造業者は4社であり,これら国内の競争業者に供給余力がほとんどないこと,輸入品については,品質や供給面の問題があって一部代替できないユーザーがいることに加え,アジア市場の需給が逼迫していることにより輸出国に供給余力がない状態が当分継続すること,新規参入及び隣接市場からの十分な競争圧力がないこと,これらにより,ユーザーにおいて取引先を自由に変更することは極めて困難であり,ユーザー側に十分な価格交渉力がない状態にあることが認められる。
 このような国内市場の状況の下,本件行為により,当事会社の国内販売数量シェアが約50%となって下位メーカー2社との格差が拡大し,当事会社の価格引上げに対する他の事業者の牽制力は弱くなると考えられるため,単独でPSの価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出することとなると考えられる。

   
2)協調的行動による競争の実質的制限の評価
 輸入品,新規参入及び隣接市場からの十分な競争圧力があるとは認められない。また,高度に寡占的な市場であるところ,各社は相互に生産能力を容易に知り得る状況にあると同時に,生産費用に占める共通の原材料の割合が大きく,費用構造が類似しているため,競争業者が互いの行動を高い確度で予測することが可能な状況にある。
 このような国内市場の状況の下,本件行為により,原材料の調達状況が異なる競争業者が1社減少し,一層高度に寡占的な市場となるため,当事会社とその競争業者が協調的行動をとることによりPSの価格等をある程度自由に左右することができる状態が容易に現出することとなると考えられる。

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前者の判断時には輸入の供給余力があったので国内品の価格の状況に応じて輸入量が増加する蓋然性が高く,輸入圧力が一定程度働いていると認められたが、後者の判断時には中国向け輸出が好調で日本向けの輸入増加の可能性が少ないので輸入圧力はないということである。
申請時期には2年しか差がなく、この短期間の状況変化で全く異なる結果となってしまっている。
「今後,中国国内においてPSプラントを増設する計画があるが,PSの原料であるSMについてもアジア全体で供給不足が継続する見込みであるため,この傾向は当面継続される見込みである」とあるが、これは一つの見方に過ぎず、筆者等の中国バブル説では間もなくバブルは弾けるとみている。現にPVCの場合には中国の輸入はこの2年減少を続けており、逆に中国からの輸出が昨年11月から急増している。

中国バブルが弾ければ、行き場をなくした韓国や台湾メーカーは日本に輸出先を変える可能性は十分にある。公取委も認めるとおり関税は既に下がっており防御策にはならない。

このような将来の可能性に備えて事業統合をしようというのを、今現在の需給状態だけで判断するのは、競争政策研究会の指摘の通り、非常に問題である。

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